もうひとつのバブル崩壊
2025年10月14日 16:05
バブルと言えば2000年に崩壊したドットコム・バブルが有名ですが、実はドットコム・バブル崩壊より一足先に別のバブル崩壊がありました。
1998年頃、クレイグ・ベンターという人が「いまヒトゲノム計画がすごく進展しており、もう少しでヒトゲノムがすべて解読できる!」と発表、センセーションを巻き起こしました。なぜならヒトゲノムをすべて解読すれば、ゲノム創薬が出来るからです。
これを受けてPEバイオシステムズのようなDNAシーケンサー企業、セレラ、ミレニアム・ファーマシューティカルズなどの株が人気化しました。
ヒトゲノムの解読がすべて終わったのは2000年1月頃で、セレラ株は2000年2月に最高値の250ドルに達しました。しかしそこが「材料出尽くし」の天井で、そこからセレラ株は半年で高値から80%暴落しました。
一方、ドットコム・バブルが崩壊の兆しを見せたのは2000年4月にIT企業各社が相次いで利益警告を行い「設備投資がパタッと止まった!」と悲鳴を上げたのが直接の引き金でした。したがって2つのバブルのピークは、明らかに違います。
ヒトゲノム計画が完了した時、メディアは「これで病気の原因となる遺伝子が全部わかるので、創薬は劇的に効率化する。5年以内に遺伝子治療や個別化医療が可能になる!」と囃しました。
しかし実際にはデータが膨大すぎ、ターゲットの生物学的意味を解釈できなかったことからゲノム創薬は難航しました。(今ならAIがあるので、それは随分カンタンになりました)
個別化医療、すなわち遺伝子分析で最適薬を選ぶことは、2010年以降に癌など一部の疾病分野で実現しました。
遺伝子治療に関しては初期の臨床試験で死亡事故が発生し、停滞しました。
創薬スピードは短縮されるどころか逆に長期化しました。
結局、ゲノム創薬の威力をフルに発揮したのは新型コロナのワクチンをmRNAを用いて創薬したバイオンテックやモデルナであり、実際には5年ではなく20年の年月を要したのです。
バブルの最中では、この「5年と20年では大違い!」という点に誰もが注意を払いません。一例として量子コンピュータの実用化は早くても2030年以降と言われています。普段、株式市場では2年以上先に実現するような技術に投資するのは悪手と言われます。しかしバブル相場の局面だけではその教訓が忘れられ、人々は無批判に夢を買うわけです。
いまは超知能とか量子コンピュータとか空を飛ぶ無人タクシーのような軽薄なテーマが跋扈しています。このバブルは崩壊寸前です。