パウエル議長は風前の灯 連銀ビル改装問題を口実に解任も
2025年7月12日 12:13
連邦準備制度理事会(FRB)のジェローム・パウエル議長は来年の春まで任期が残っていますが、それを待たずに解任される可能性が出てきました。
これは米国の市場に重大なインパクトをもたらす材料です。
「トランプ大統領がFRB議長を解任できる?」、仮に解任できても「そういう荒っぽいやり方はまずいのでは?」
これは市場参加者が何度も直面してきた命題です。
ここまでのところ「大統領にその権限があるかどうかは、グレー」、「もしゴリ押しするなら市場を刺激しすぎるので得策ではない」という暗黙の了解みたいなのがありました。
しかし先週、雲行きが変わりました。
ラッセル・ボート米行政管理予算局(OMB)局長が「FRB本部改装プロジェクトにおけるコスト・オーバーラン問題で、パウエル議長が議会証言した際、虚偽の証言をした可能性がある」という書簡をパウエル議長に送った為です。
問題になっているのは1930年代に完成したFRBのエクルス・ビルディングならびにその横に建設中のFRBイースト(仮称)で、当初19億ドルと見積もられていた建設費用は2023年の時点で25億ドル、いまはそれ以上かかる公算が大となっています。
なおエクルス・ビルディングの裏にある、マーチン・ビルディングは1974年に建設されたのですが、既に改装され、ピカピカの新しいビルとして2021年に新装オープンしています。
FRBイーストは当初とても華美なデザインになっていたのですが、2年前にそれが議会で問題にされた際、FRBはこっそりデザインをトーンダウンしました。それでも未だ華美であることには変わりはありません。
つまりトランプ政権はパウエル議長を金利政策の采配の間違いで解任しようとするのではなく、もっと立証しやすい、ひとつの行政機関の長として、その組織の予算管理が杜撰かつ、その事に関して議会証言で嘘の証言をしたというカドで追求するというわけです。
こういう風に書くと(そんな些細な問題で…)と思われるかも知れませんが、実は過去にFRBの「宮殿」建設はこの官僚組織の権力抗争の象徴としての役割を果たしてきました。つまり今日に始まったことではないのです。
もともと連邦準備制度が発足したときはベンジャミン・ストロングが率いるニューヨーク連銀が、連邦準備制度理事会より「上」でした。パワフルなニューヨーク連銀が1920年代に連銀ビルを建設した際「ソロモン王の神殿すら安っぽく感じられるほど重厚で華美なビルだ」と批判されました。
ところが1929年の「暗黒の木曜日」から世界大恐慌へつながる一連の危機の際、断固とした措置を講じることができなかったNY連銀のチカラは弱められ、ワシントンDCにある連邦準備制度理事会の方へ実権は写ってゆきました。
新しく権力を握ったFRBは、1937年、ワシントンDCにエクルス・ビルディングを建設することでその権力を誇示したわけです。そのへんの経緯はミルトン・フリードマンのベストセラー「選択の自由」で痛烈に批判されています。
ニューヨーク連銀は「市場指向」が強いのに対しFRBは官僚制度が濃厚で風通しが悪いです。責任の所在に関しても透明性は落ちているという指摘があります。
口では「国民のしもべ」であることを謳いながら、実際には隠然たる権力を持ち、組織の永続化へのバイアスがかかっているのです。
今回のFRB本部改装問題は、イーロン・マスクが断行した政府効率化省(DOGE)のリストラと対比すれば明らかに国民の支持を得にくい無駄遣いであり、パウエル議長の「組織の監督責任の欠如」を問うことは容易です。