ベッセント・プットは存在する
2025年4月14日 12:39
トランプが「殿、ご乱心!」的な状態になっているので(マーケットに取り付く島もない)と感じている投資家が多い。
しかし目先の相場は「上」であり、フラフラと指数が上がったところでは、ちゃんと「次のテーマ」にシフトしていけるように高値で米国株へのエクスポージャーを軽くし、ラッキになれる投資対象、それはドイツ、バングラデシュ、インド、メキシコ、UAEなどになるわけだが…それらの国々にガッツリ資金を振り向けることが出来る体勢を鋭意作ってゆく必要がある。
まずトランプがやりたいことは「製造業の米国回帰」であり、これは足掛け40年、トランプが主張してきた持論であり、まったくブレない。だから米国中西部の有権者を優遇し、そのためには西海岸、東海岸の有権者(そこは民主党の牙城)を見殺しにするということを必ずやると覚悟しなければいけない。
ちょうどスターリンがソ連の工業化を無理矢理押し進めるためウクライナ地方の農民から穀物を過酷に供出させ、それを国際市場で転売して、製鉄所などの建設費用に回し、その影響で何百万人もの餓死者を出したのを彷彿とさせるような、有無を言わせぬ強引な産業構造の大改造をいまやろうとしている。
その際、トランプがロールモデルとして仰いでいるのはリチャード・ニクソンだ。ニクソンと言えば当時「1ドル=365円」という固定相場制を止め、変動相場制へと移行を宣言した大統領であり、その強引なやり方は「ニクソン・ショック!」として語り草になっている。思えば、これが後々日本が凋落する遠因…最初の予兆だったわけだが、それと同じドル安への道をいまトランプは歩もうとしている
なぜトランプがそうする必要があるのか? それは米国経済を巨視的に見れば理解できる。
アメリカのGDPは27.7兆ドルで政府の財政赤字はGDPの−6.2%だ。つまり赤字額1.7兆ドル。
この財政赤字をGDPの−3.0%に持っていかないといけない。すると0.87兆ドルを見つけてくる必要がある。
イーロン・マスクが政府効率化省(DOGE)で大ナタを振るっているのはそのためだ。しかしこれまでにイーロンが実現したコスト・セービングは0.15兆ドル前後だと言われている。
いまトランプが発表した一連の関税が全て実行に移された場合、年間0.17兆ドルの増収になるという試算がある。これらを合計すると0.32兆ドルになる。それでも未だ足りない。
しかし関税は実質的には米国民への増税に他ならない。企業は関税によるコスト増を消費者に価格転嫁し、それはインフレを招く。だから連邦準備制度理事会(FRB)は利下げできない。
言い直せば米国は:
1. 緊縮財政
2. 高金利
の中で、現在の経常赤字(GDPの−3.9%)の是正に取り組んでいる。米国の債務はGDPの122%だ。
一方、ドイツは最近「財政バズーカ」と呼ばれる1兆ユーロの軍事費積み増し+インフラストラクチャ投資を憲法改正までして決定した。
ドイツの財政赤字はGDPの−2.6%に過ぎないのでむしろ少し赤字額を増やす余地がある。ドイツの債務はGDPの僅か63%に過ぎない。だからドイツ国債を増発する余地は幾らでもある。ドイツの経常収支はGDPの+5.7%と大幅な黒字になっており、これがアメリカから叩かれる原因を作ってしまっている。しかも欧州中央銀行(ECB)は今週、利下げサイクルに入って以来7回目に相当する利下げを実施すると見られている。
言い直せばドイツは:
1. 財政出動
2. 利下げ
ドイツの株式市場が「50年に1度」の好環境にときめいているのはそのような理由による。
アメリカは「わざと米国投資の魅力を殺ぐ」ことにより体質改善を押し進めているわけだから、自ずと株式市場の顔色を伺いながら薄氷を踏む思いでこれを実行に移すことを強いられている。
株式市場からすれば強硬な改革推進派である**ピーター・ナヴァロ貿易製造業上席顧問、ハワード・ラトニック商務長官らは「悪い警官」の役目を果たしている。
そしてマーケットのメンタルが崩壊しそうになるとウォール街担当とも言えるスコット・ベッセント財務長官が「良い警官」の役目を演じ、投資家に優しい声をかけるということをしている。この「良い警官」が出てくるタイミングはマーケットが高値から−20%下げた瞬間であり、指数で言えば4,917だ。
なおウォール街担当ではもうひとり「悪い警官」も居る。それはシュテファン・ミラン大統領経済諮問委員長だ。**彼は「マーアラーゴ合意」の画策者であり、金融取引税を導入することを主唱している。
こういう登場人物たちの顔ぶれと役回りを良く理解したうえで投資を進めてゆく必要がある。
いまは未だ4,917のところにある「ベッセント・プット」が有効な状況なので、投資家は比較的安心しながら投資を進めることができる。
ただしトランプの大構想が株式市場を犠牲にした一世一代の米国の産業構造の大改革にある以上、米国政府は投資家にとってもはやフレンドリーな市場ではなくなってしまったことを早く悟る必要がある。
なお日本株は円高局面では上昇しにくい。インバウンドのテーマも消えてしまった。
中国株は米国との間で関税を巡る死闘を繰り広げている当事者なので、とても買っていけない。
するとあなたがコラテラル・ダメージになりたくないのなら、それらのマーケットを避け、ドイツや新興国、フロンティアマーケットに活路を見出す以外にない。