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SPACのおさらい

2025年1月17日 03:42

今度ウクライナ最大のモバイル企業、キーウスターが米国のSPAC(特別買収目的会社)と合併、ナスダックに上場されることになりました。

そこでもう一度SPACの仕組みを整理しておきたいと思います。
 
一般にSPACは以下のようなプロセスを踏むことが多いです。

SPACを設立し上場(IPO)する
まずSPAC創設者が空箱会社(SPAC)を設立し、IPOを通じて資金を調達します。調達した資金は信託口座に預けられ、2年以内に買収先を見つけます。
 
買収ターゲットの選定と交渉
SPAC創設者はターゲット企業を決め買収条件を売り手と交渉します。

買収契約の締結・公表
SPACと売り手が価格面で合意すると最終契約を締結し、マーケットに公表します。
 
株主投票
SPACは自分の株主に対し、「このターゲット企業との合併を承認してよいか?」を諮る投票を行います。SPACの株主は、合併に賛成するかどうかにかかわらず、株式を償還(リデンプション)して信託口座にある約1株あたり$10(+ わずかな金利)を受け取る選択肢もあります。

合併の完了・社名およびティッカーシンボルの変更
合併が承認されると、SPACとターゲット企業が実際に合併し、新会社が誕生します。会社名はターゲット企業の名前に変更されティッカーシンボルも切り替わります。

ワラント
さて、米国のSPACがワラントを発行する主な理由は、投資家に対して投資インセンティブを与え、資金調達を円滑に進めるためです。

SPACが発行するユニット(Unit)には、1株の普通株式に加えてワラントが付与されるケースが一般的です。

これは、投資家が単に株式を買うよりも多くの将来利益を得られる可能性を持たせることで、投資資金を集めやすくする狙いがあります。

ワラントは将来、あらかじめ決められた価格(行使価格)で追加の株式を購入できる権利であり、株価が上昇した場合に大きなリターンを得られる可能性があります。

一方で株価が伸びなければ、ワラントが行使されないので会社側にも不要な希薄化が起こりません。

SPAC創業者のインセンティブ
SPACを立ち上げるスポンサーも一定数のワラントや創業者株を保有し、それらを通じて買収案件が成功した場合にリターンを得られる仕組みになっています。

資本コストの最適化
ワラントを発行することで、SPACは実際に株式を追加発行しなくても「将来的に株式を発行する権利(可能性)」を売りに出している形になります。

SPACが最初の段階からフルエクイティ(株式)を発行すると、企業価値が確定しづらい段階での大規模な希薄化が起きる可能性があります。ワラントを使うと、合併先が決まって株価が上昇した後で行使される形になるため、結果的に高い株価での資金調達につながるメリットがあります。

帳尻合わせの実際買収対象企業のバリュエーションがSPACの時価総額を大きく上回る場合、以下の方法で「帳尻を合わせる」ことをします。

交換比率(株式交換)を調整する
SPACは「株式との交換」を通じてターゲット企業を買収します。

SPACの発行済株式数とターゲット企業の想定バリュエーションを踏まえたうえで、ターゲット企業の株主に割り当てる「交換株式(合併後の持分)」を調整します。たとえば、ターゲット企業が非常に大きい場合、ターゲット企業の元株主が合併後の大半の株式を保有する形になる(SPACスポンサーや既存株主の持分は比較的少なくなる)こともあり得ます。

結果的に、合併後の会社(combined company)の時価総額がターゲット企業の価値を反映した大きさになり、ターゲット企業のオーナー(株主)には、それに見合った多くの株式が与えられる形になります。

追加の資金調達
被買収企業の価値がSPACの時価総額より大きい場合、足りない資金をカバーするために追加の資金調達を行うケースが多いです。とくに一般的なのが以下の手法です。

PIPE(Private Investment in Public Equity)
SPACがターゲット企業との合併を発表するタイミングで、機関投資家などから私募増資の形で資金を調達します。これによって、ターゲット企業に対して「SPACが保有している信託口座の資金 + PIPEで新たに調達した資金」を支払えるようになります。

追加借入
必要に応じて、SPACが合併後の会社として負債を引き受ける形での借入れを行い、その資金を買収資金に充当する場合もあります。

キャッシュと株式の組み合わせ
ターゲット企業のオーナーに対して合併後の株式+現金という形で対価を支払う場合もあります。SPACが保有する信託口座の資金やPIPE調達による現金で一部を支払い、残りを合併後の株式で支払うことでターゲット企業の評価額を満たす手法です。

アーンアウト条項を設定
買収完了時には全額を支払わず、将来的な業績や株価目標の達成に応じて追加報酬を支払う形をとるアーンアウトを活用する場合もあります。ターゲット企業側は、今後の事業拡大や株価上昇に応じて追加的な対価を得られる可能性があります。SPAC側としては、買収時点での資金負担を抑えつつ、ターゲット企業が目標を達成した場合にのみ追加株式を発行・付与するため、希薄化や資金繰りの問題をある程度コントロールできます。

ターゲット企業の株主・経営陣のインセンティブ
既存の株主・経営陣が合併後の企業でも株式を保有し続けることで、引き続き業績拡大や株価上昇に対してコミットメントが生まれます。投資家(SPAC出資家やPIPE投資家)から見ても、経営陣が「EXIT目的で早期に抜けるわけではない」という点が安心材料になり、合併後の会社への信頼感が高まる傾向があります。

すべての株を売却する必要はない
SPACによって調達した資金の一部を既存株主への買い取りに回すことも可能ですが、SPACの資金は基本的には成長資金や合併後の新事業展開のために使われるケースが多いです。大規模な売却を行うには、PIPEなど追加調達を組み合わせる必要があります。ただし、買収と同時に既存株主が大きく売却してしまうと「上場後の企業を伸ばすモチベーションが乏しいのでは?」という懸念を投資家から持たれやすくなるため、慎重なバランスが求められます。

「ロールオーバー株式」の仕組み
ターゲット企業の株主が保有する既存株式を、合併後の株式(NewCo Stock)に変換する形で保有を継続する方法を「ロールオーバー」と呼びます。ロールオーバーの比率は交渉によって決まります。たとえば「自分たちの持ち株の70%は合併後の株式に変換して持ち続け、30%分はキャッシュ化する」といった形が典型的です。

SPAC株価の「底値」は概ね信託口座の1株あたり金額($10前後)
SPACは通常、1株あたり$10を基準にIPO(新規株式公開)時の資金を信託口座に預けています。したがって、合併が不成立となり清算に至れば株主にはその$10前後が返金されるため、SPACの株価は大きく下回りにくい構造があります(ただし、市場環境や流動性、投資家の思惑によって一時的に$10を割ることもあり得ます)。

ターゲット企業発表時の株価の動き

好意的な反応:株価上昇のケース
「成長著しい業種(で、投資家が期待を寄せる企業を買収する」というニュースが出ると、SPAC株価が$10以上へ大きく上振れすることがあります。2020~2021年頃のSPACブームのときは、買収先が話題性の高い企業だと分かった瞬間に株価が急騰するケースがしばしば見られました。

否定的・不透明な反応:株価下落のケース
投資家が「想定していたより企業価値が高すぎる」「合併後のビジネスモデルに大きな懸念がある」「市場環境が悪い」などと感じる場合、発表後に株価が下落することがあります。また、買収先が想定外の業態や赤字続きの企業であったりすると、市場は失望売りを起こす場合があります。

合併承認投票後の株価推移

承認による確定感 → 一時的な変動
株主投票を通過して買収がほぼ確定すると、「不確実性の解消」によって安心感が広がり、一定の買いが入る可能性があります。その一方で、「材料出尽くし」で売りに出されるケースもあり、方向性は一概には言えません。

リスク取りたくない投資家は株式をリデンプション(償還請求)
SPACの株主は、買収に反対の場合や、単にリスクをとりたくない場合、$10(プラスわずかな金利)の払い戻しを選択できます。多くの株主がリデンプションを選ぶと、SPACに残る資金が少なくなり、合併実行後の企業に十分なキャッシュが渡らない可能性があるため、株価にとってマイナス要因となることもあります。