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テスラのイーロン・マスクに対する15兆円の巨額報酬パッケージがデラウェア州衡平法裁判所に一蹴された背景

2024年12月8日 21:09

テスラのイーロン・マスクに対する巨額報酬パッケージ(当初は8.4兆円→その後テスラ株の上昇で現在の価値は約15兆円)を巡る訴訟は2018年にテスラ株を9株保有していた個人投資家リチャード・トルネッタ氏が「この報酬は大きすぎるのでは?」とデラウェア州衡平法裁判所に訴えを起こしたことから始まりました。

2024年1月の第一審判決でキャサリン・マコーミック判事はこの報酬パッケージを承認した取締役会には独立性に疑問があるとして原告側を支持、報酬パッケージを却下しました。
 
そこでテスラは6月に株主総会を招集、株主の72%が賛成票を投じました。
 
しかし、12月2日の判決で、マコーミック判事は再度この報酬パッケージを無効とし、株主投票による再承認では以前の判断を覆すことはできないと述べました。また、テスラが株主に提供した最新の情報開示には「重大な虚偽または誤解を招く記載」が含まれていたと指摘しています。
 
マスクは自身のSNSで「絶対的な腐敗」とこの判決を非難しています。
 
この問題は、企業統治や経営者報酬の在り方に関する重要な議論を引き起こしています。
 
**デラウェア州衡平法裁判所(Court of Chancery)**は、企業法務や商事案件を専門的に扱う裁判所であり、陪審員を用いず、職業裁判官であるChancellorやVice Chancellorが直接審理と判決を行います。
 
このような構造により、専門性の高い複雑な企業関連の訴訟において、迅速かつ専門的な判断が可能となります。今回のイーロン・マスク氏の報酬パッケージに関する判決も、同裁判所の専門性と迅速性が反映された結果といえます。
 
すこし歴史を紐解いてみましょう。

20世紀初頭、複数の州が「法人法の競争(race to the bottom)」を繰り広げていました。
 
ニュージャージー州は「法人法のパイオニア」として、柔軟で企業フレンドリーな法律を導入しました。1896年、ニュージャージー州は企業の設立と運営に関する規制を緩和し、初めて多くの企業が同州に法人登記をするようになりました。当時、ジョン・D・ロックフェラーのスタンダード・オイルや鉄道業界の大企業などがニュージャージー州で登記されました。

しかし1913年、堅物で知られるウッドロウ・ウィルソン大統領(当時はニュージャージー州知事)の指導の下、州はより厳しい法人規制を導入しました。この変更により、企業はより寛容な規制を求めて他州に移転し始めました。

ネバダ州はデラウェア州に次ぐ「ビジネスフレンドリーな州」として知られています。特に法人税がないことや、取締役および役員の匿名性を保護する仕組みにより、企業誘致を進めました。ただし、デラウェア州ほどの法的な専門性や長期的な信頼性を築けなかったため、後れを取っています。
 
さて、デラウェア州衡平法裁判所の話に戻ると、この裁判所はアメリカ合衆国における法律システムの中で非常にユニークな存在です。その独自性は、以下のような歴史的経緯と特徴によって生じています。

  1. 歴史的背景
  • デラウェア州衡平法裁判所は18世紀末に設立されました。当時、イギリスのコモンローと衡平法(Equity Law)の伝統を継承し、特定の案件では衡平法に基づく柔軟な解決を提供する目的がありました。
  • この裁判所は、契約紛争、信託、財産管理、そして特に企業法に関する案件を専門的に扱うために設計されています。
  1. デラウェア州が企業法の中心となった理由
  • デラウェア州は20世紀初頭に法人法を整備し、企業に有利な環境を提供するようになりました。特に、1903年に「デラウェア一般法人法」が成立し、企業経営者に柔軟な運営を認める規定が多く盛り込まれました。
  • これにより、多くの大企業がデラウェア州に法人登記を移すようになり、州は法人税収を得ることで経済的利益を得る仕組みを確立しました。
  1. 衡平法裁判所の専門性
  • 他の州の裁判所と異なり、デラウェア州衡平法裁判所では陪審員制度を用いず、専門性の高い裁判官(ChancellorおよびVice Chancellors)がすべての案件を直接審理します。
  • これにより、特に複雑な商事案件や企業関連の紛争に迅速で一貫性のある判断が下されます。
  1. 企業関連案件の集積
  • デラウェア州に法人登記をしている企業が多いため、デラウェア州衡平法裁判所は自然と企業法に関する案件の中心地となりました。
  • 同裁判所は、企業買収、取締役の義務、株主の権利などに関する重要な判例を多く生み出し、アメリカの企業法に大きな影響を与えています。
  1. 法的安定性と予測可能性
  • デラウェア州衡平法裁判所の判決は高度な専門性と法的安定性が評価されており、企業にとって訴訟リスクの予測がしやすいという利点があります。
  • このため、デラウェア州は「ビジネスフレンドリーな州」として知られ、多くの大企業が同州を選ぶ理由となっています。