確定拠出年金と日米のトレーディングスタイルの違い
2024年7月19日 08:30
確定拠出年金と確定給付年金は、両者とも企業年金の種類ですが、給付の決め方と運用リスクの負担者が異なります。
確定拠出年金:
- 企業が従業員ごとに個人口座を設け、一定額を拠出する
- 運用は従業員自身が運用商品を選択して行う
- 給付額は個人口座の運用実績による
- 運用リスクは従業員が負担する
確定給付年金: - 従業員の最終給与など一定の算定方式で給付額を決める
- 運用は企業や年金運用機関が行う
- 給付額はあらかじめ決められた水準が約束される
- 運用リスクは企業側が負担する
つまり、確定拠出年金は従業員自身が運用リスクを負うが、給付額を自分で運用次第で増やせる可能性がある一方、確定給付年金は企業が運用リスクを負うが、従業員には確定した給付が約束されるという違いがあります。
近年は運用リスク軽減のため、確定拠出年金が増加傾向にあります。
米国における確定拠出年金と確定給付年金の残高シェアは、以下のようになっています。
確定拠出年金(401(k)プラン等): - 2022年末時点での残高は11.7兆ドル
- 全体の年金残高の63%を占める
確定給付年金: - 2022年末時点での残高は6.8兆ドル
- 全体の年金残高の37%を占める
つまり、確定拠出年金の残高シェアが確定給付年金を上回っており、近年この傾向は更に強まっています。
確定拠出年金が優位な理由としては、 - 従業員の職場移動が増えたため、確定拠出年金の移植性が評価された
- 企業が運用リスクを回避できる
- 401(k)などへの税制優遇措置があった
などが挙げられます。
一方、確定給付年金は従業員に安定した老後所得を約束できるメリットがある反面、企業側の運用リスクや積立不足への懸念から徐々にシェアを落としつつあります。
欧州においても、以下の理由から確定拠出年金への移行が進んでいます。
- 高齢化による年金財政の圧迫
確定給付年金は企業や政府の負担が大きく、高齢化に伴う財政負担の増大が課題となっている。確定拠出年金は個人負担なので財政を圧迫しない。 - 労働力の流動化
職場を転々とする労働者が増え、確定拠出年金の移植性が評価されている。 - 平均寿命の伸長
平均寿命が伸びたことで、年金支払い期間が長期化し、確定給付年金の負担が大きくなった。
具体的な国々の動向をみると、
- イギリスでは1990年代後半から確定拠出年金が拡大
- ドイツでも2001年に確定拠出年金が導入され徐々に広がっている
- フランスでも2019年に企業年金改革で確定拠出年金が選択肢に
ただし、依然として確定給付年金を残す国も多く、移行ペースには国ごとの違いがあります。全体として欧州は確定拠出年金へのシフトが進行中の状況と言えるでしょう。
欧州で依然として確定給付年金が主体となっている主な国は以下のとおりです。
オランダ - 企業年金の95%以上が確定給付型
- 年金基金による運用が行われている
スウェーデン - 所得比例公的年金が基礎にある
- 職域年金でも確定給付型が大半
ドイツ - 公的年金の他、確定給付企業年金が一般的
- ただし徐々に確定拠出型も広がりつつある
ベルギー - 企業年金のほとんどが確定給付型
- 従業員の権利として法制化されている
スイス - 強制加入の企業年金が確定給付型
- 個人の拠出と使用者の拠出で運営
これらの国々では、長年の伝統から確定給付型が中心的な役割を果たしてきました。ただし、近年の財政負担増や労働市場の変化から、徐々に確定拠出型も選択肢に加えられつつあります。
一方で、イギリス、アイルランド、デンマークなどは90年代後半から確定拠出型への移行が進んでいる国々です。欧州内でも国ごとに状況が分かれている状態です。
日本における企業年金の状況は以下のとおりです。
確定給付企業年金: - 2022年3月末時点で11,597基金
- 加入者数は約755万人
- 伝統的に主流を占めてきたが、近年は減少傾向
確定拠出年金: - 2022年3月末時点で6,904事業所
- 加入者数は約1,258万人
- 2001年の導入以降、徐々に普及が進んでいる
つまり、日本でも確定給付企業年金から確定拠出年金へとシフトが進行しているものの、依然として確定給付型の基金数・加入者数が多い状況です。
この背景には、以下の点が挙げられます: - 終身雇用制の影響で、従業員の長期勤続が一般的であった
- 確定給付型を望む労使の意向
- 運用リスクを企業が負担することで従業員の老後所得を保証
しかし近年では、雇用流動化や企業の財務リスク負担への警戒感から、確定拠出年金への移行が徐々に進んでいます。日本においても、欧米と同様の変化の兆しがみられます。
確定拠出年金では投資信託が主要な運用商品の一つとなっています。主要国における投資信託の残高は以下の通りです。
アメリカ: - 2022年末時点で投資信託(ミューチュアルファンド)の純資産総額は24兆ドル
- 確定拠出年金の主要運用商品として活用されている
日本: - 2022年12月末時点で公募投資信託の純資産残高は131兆円
- 確定拠出年金だけでなく個人投資家からの需要も大きい
英国: - 2021年末時点で投資信託の残高は1.7兆ポンド
- 年金基金や個人投資家から資金を集めている
このように投資信託残高は各国で高水準にあり、特にアメリカと英国では確定拠出年金向けの運用商品として大きな役割を果たしています。
日本でも公募投資信託への資金流入が継続しており、確定拠出年金の運用商品として活用が進んでいます。ただし個人投資家向けの投資信託の比重が高く、欧米ほど年金向けの運用は発達していないのが実情です。
確定拠出年金においてインデックスファンドが好まれる主な理由は以下の通りです。
- 低コスト
インデックスファンドは運用手数料が一般的な actively管理される投資信託より低コストであるため、長期的に高いリターンが期待できます。 - 分散投資が容易
インデックスファンドは様々な銘柄に分散投資できるため、個別銘柄の選択リスクを回避できます。 - 長期投資に適している
インデックスファンドは売買コストが低いため、長期投資に適しています。確定拠出年金は長期の資産形成を目的とするので合致します。 - 運用がパッシブなので管理が容易
インデックスファンドは基準インデックスに連動するだけの運用なので、能動的な売買を必要としません。従って、多数の個人口座を一括して運用しやすいメリットがあります。 - リターンが市場平均と同等
優秀な運用手腕がない個人投資家にとって、市場平均リターンが得られるインデックスファンドは合理的な選択肢となります。
このように、コストが低く、手軽に分散投資できる点から、確定拠出年金の運用商品としてインデックスファンドが広く普及しています。
アメリカの401(k)では:
- 拠出時と運用益の実現時(売却時)の両方で非課税
- 受け取り時(引き出し時)に所得税が課される
一方、日本のiDeCoや新NISAでは: - 拠出時は非課税
- 運用益の実現(売却益)については一定の非課税限度額が設けられている
- iDeCoでは年間限度額あり(2023年は40万円)
- 新NISAでは積立年数による限度額あり(20年で最大936万円の非課税)
- 受取時(引出時)は課税されない
つまり、アメリカの401(k)では運用期間中の益金が完全に非課税となるのに対し、日本のiDeCoや新NISAでは運用益に対して一定の非課税限度額が設けられているという違いがあります。
この点で、確定拠出年金の運用益に対する非課税措置はアメリカの方が手厚く、日本では投資額や期間によって非課税限度額に達する可能性があることに留意が必要です。
米国の401(k)と日本のiDeCoや新NISAでは、非課税限度額の扱いが異なるため、適した投資アプローチが異なってくるでしょう。
米国の401(k)の場合: - 運用益が完全非課税なので、積極的なトレーディングによるキャピタルゲインを狙いやすい
- 短期売買した売却益も非課税となる
一方、日本のiDeCoや新NISAの場合: - 非課税限度額があるため、長期投資に徹して値上がり益を最小限に抑える方が有利
- 短期的な売買によるキャピタルゲインを出し過ぎると、非課税限度額を超えて課税対象となるリスクがある
つまり、401(k)では積極的な売買でキャピタルゲインを狙う投資スタイルが可能ですが、iDeCoや新NISAでは長期の買い持ちに徹して値上がり益を抑える投資スタイルが適しているということです。
もちろん、個人の投資スタイルによっても異なりますが、一般論としては401(k)ではアクティブ投資、iDeCoや新NISAではパッシブ投資が有利だと言えるでしょう。非課税制度の違いを踏まえた上で、最適なアプローチを選択することが賢明です。