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株式バリュエーションの手法

2024年7月9日 20:30

株式バリュエーションには、主に以下の手法があります。

  1. 割引キャッシュフロー法(DCF法)
    将来の予想フリーキャッシュフローを適切な割引率で現在価値に割り引いて企業価値を算出する手法です。
  2. 株価収益率(PER)
    株価を1株当たり利益で割った適正PERを用いて理論株価を算出します。
  3. 株価純資産倍率(PBR)
    株価を1株当たり純資産で割った適正PBRを用いて理論株価を算出します。
  4. 配当割引モデル(DDM)
    将来の配当を適切な割引率で現在価値に割り引いて理論株価を算出します。
  5. 類似会社比較法
    同業他社の適正株価を参考に、対象企業の理論株価を算出します。
  6. 前例取引方式
    過去の同業種の実際の取引事例を参考に対象企業の株価を評価します。
     
    これらの手法はメリット・デメリットがあり、分析目的や対象企業の特性に合わせて使い分けたり、組み合わせて総合的に分析することが重要です。
     
     
    割引キャッシュフロー法(DCF法)の基本的な計算式は以下のとおりです。
     
    企業価値 = Σ(FCFt / (1+r)^t) + (TV / (1+r)^n)
  • FCFt = t期のフリーキャッシュフロー
  • r = 割引率(加重平均資本コスト)
  • TV = 終端価値
  • n = 予測期間(年数)
  1. フリーキャッシュフロー(FCF)の予測
    まず将来のフリーキャッシュフロー(FCF)を一定期間(通常5~10年)予測します。
    FCF = 営業キャッシュフロー - 資本的支出
  2. 割引率(r)の設定
    次に割引率(r)を設定します。一般的に加重平均資本コスト(WACC)を用います。
    WACC = 自己資本コスト×自己資本比率 + 有利子負債コスト×(1-税率)×有利子負債比率
  3. 終端価値(TV)の計算
    最終年以降の永久の価値であり、以下の式で算出されます。
    TV = FCFn+1 / (WACC - 永久成長率)
  4. 現在価値の計算と企業価値の算出
    上記により将来のFCFと終端価値を計算し、それらの現在価値を合計することで企業価値が得られます。
     
    DCF法には以下のような主な弱点があります。
  5. 将来キャッシュフロー予測の難しさ
    DCF法では将来のフリーキャッシュフロー(FCF)を長期にわたって予測する必要があります。しかし、長期の予測は不確実性が高く、予測の前提条件次第で結果が大きく異なります。
  6. 割引率(WACC)の設定の難しさ
    割引率として用いる加重平均資本コスト(WACC)の算出が難しい面があります。特に自己資本コストの推計が困難です。WACCの設定次第で現在価値が大きく変わります。
  7. 永久成長率の仮定の曖昧さ
    終端価値の計算で用いる永久成長率の設定が恣意的になりがちです。成長率の違いで終端価値が大きく変動します。
  8. 財務データの制約
    DCF法ではキャッシュフロー計算に必要な詳細な財務データが不可欠です。非上場企業などデータが不足する場合は適用が難しい面があります。
  9. モデルの複雑さ
    DCF法のモデル自体が複雑で、実務で適切にモデル化することは容易ではありません。前提条件の影響を受けやすいのが弱点です。
     
    このようにDCF法は理論的に優れた手法ですが、実務上は多くの仮定を必要とし、実用的でない面もあります。
     
     
    株価収益率(PER: Price Earnings Ratio)の計算式は以下のとおりです。
     
    PER = 株価 / 1株当たり当期純利益
     
    具体的には:
     
    PER = 株価 / (当期純利益 / 発行済株式総数)
  • 株価は1株当たりの株価です
  • 当期純利益は直近の年間または四半期の当期純利益を用います
  • 発行済株式総数は株式分割などで変動する可能性があるので、最新のデータを使う必要があります
     
    例えば、
    株価が1,000円
    当期純利益が10億円
    発行済株式数が1,000万株の場合
     
    PER = 1,000円 / (10億円 / 1,000万株)
    = 1,000円 / 100円
    = 10倍
     
    になります。
     
    PERは企業の利益に対する株価の割高・割安感を示す指標として広く使われています。業種や企業の成長性によって適正PERは異なりますが、一般的に値が低いほど割安と判断されます。
     
    株価収益率(PER)を計算する際は、過去の実績値ではなく、将来の予想一株当たり利益(EPS: Earnings Per Share)を用いるのが一般的です。
     
    将来予想EPSを使うメリットは以下のようなことがあげられます。
  1. 株価は将来の利益や成長性を先取りした価格であり、過去の実績値よりも将来予想値の方が適切
  2. 企業の業績は経済環境の変化などにより変動するため、直近の過去実績より先行する将来予想値を使う方が妥当
  3. アナリスト予想などを活用することで、投資家の期待値を反映した適正PERが算出できる
     
    例えば、来期の1株当たり予想利益が120円で、株価が1,200円の場合、
     
    予想PER = 1,200円 / 120円 = 10倍
     
    と計算できます。予想PERを類似企業や業界平均と比較し、割高/割安を判断する際の参考にできます。
     
    ただし、予想値の精度次第で適正PERの判断が変わるため、予想の根拠や前提が重要になります。過去実績値との乖離に注意が必要です。
     
    株価純資産倍率(PBR)を使う際の主な注意点は以下のとおりです。
  4. 純資産の時価評価
    PBRの分母となる1株当たり純資産は、時価ではなく簿価で計算されている場合が多いため、資産の含み損益を考慮する必要があります。時価純資産を使えばより適正なPBRが得られます。
  5. 無形資産の扱い
    無形資産が多い企業の場合、簿価には計上されないブランド価値や人的資本などを考慮する必要があります。PBRだけでは適正な株価評価ができない可能性があります。
  6. 資産の入替タイミング
    設備投資のサイクルによっては、資産の入替え直後は高PBR、老朽化が進むと低PBRになるため、一時点のPBRだけでは評価が難しい面があります。
  7. 業種特性の考慮
    資本集約的な業種は一般にPBRが高く、ソフトウェア等無形資産型企業はPBRが低くなる傾向にあります。同業種内でPBRを比較する必要があります。
  8. 成長性との関係
    成長企業は将来の超過収益力を期待して割高なPBRになりますが、成熟企業は割安なPBRとなります。成長性と掛け離れたPBRは適正でない可能性があります。
  9. 一時的な要因の考慮
    企業が一時的に低収益の場合、純資産に比べて株価が割安になり高PBRとなるため、一過性か構造的要因かを見極める必要があります。
     
    このようにPBRは資産の適正評価や企業の成長性等を加味して総合的に判断する必要があり、単独の指標として過信は禁物です。
     
    エンタープライズ・バリュー(EV: Enterprise Value)を企業価値の指標として用いるメリットは以下のようなことがあげられます。
  10. 負債を考慮できる
    EVには有利子負債が含まれるため、企業の実質的な価値をより適切に反映できます。時価総額は負債を考慮していないため、実体を表さない可能性があります。
  11. キャッシュの保有状況を反映
    EVから余剰現金を控除するため、キャッシュの保有状況を加味した企業価値の評価ができます。一方の時価総額はキャッシュ保有を反映しません。
  12. 資本の異なる企業を比較可能
    EVはキャパシティーを表す指標のため、資本構成が異なる企業間での比較が可能になります。時価総額は資本構成の影響を受けるためです。
  13. 買収時の実質コストに近い
    買収における実質的な対価はEVに近いため、買収の是非を検討する際に適した指標となります。時価総額は買収対価を過小評価してしまいます。
  14. レバレッジの影響を排除
    EVはレバレッジの影響を排除した企業本来の価値を示すため、資本構成が異なる企業間の実力比較に適しています。
     
    このようにEVは負債・現金・資本構成の影響を除去でき、より実体に即した企業価値評価が可能です。特に異なる資本構造の企業を比較する際に有効な指標となります。ただし、EVの計算が複雑になる点は注意が必要です。