効率的市場仮説とは
2024年7月7日 20:30
効率的市場仮説とは、金融市場における主要な理論の1つです。この仮説の主な内容は以下の通りです。
- 市場価格は常に全ての入手可能な情報を完全に反映している
- 新しい情報が入ると即座に価格が調整されるため、常に適正な価格水準にある
- したがって、投資家が入手可能な公開情報だけでは将来の価格変動を予測して利益を上げることはできない
つまり、市場が完全に効率的であれば、公開情報だけからは将来の価格動向を読むことができず、投資家は長期的に市場平均を上回る利益を上げられないということになります。
この仮説が成り立っている程度については議論があり、強型、半強型、弱型の3つの形態があると考えられています。強型が完全に効率的な最も厳しい形で、弱型は過去の価格情報だけでは超過収益は得られないというレベルです。
実際には市場の効率性には一定の限界があると考えられていますが、効率的市場仮説は金融理論の重要な概念として広く知られています。
効率的市場仮説が完全に成立している場合、アクティブ運用による長期的な超過収益は期待できません。その理由は以下の通りです。 - 市場価格が常に全ての公開情報を反映しているため、公開情報からは将来の価格変動を予測できない
- 新しい情報が入れば即座に価格が調整されるので、情報の非対称性を利用した売買で利益を得ることはできない
- 投資家が入手可能な情報は同じなので、一部の優れた投資家が長期的に勝ち続けることはできない
つまり、市場が完全に効率的であれば、どのような投資手法を用いてもアクティブ運用で指数を長期にわたり確実に上回ることは不可能となります。
このため、効率的市場仮説が成り立つならば、アクティブ運用よりもインデックス運用や買い持ちなどのパッシブ運用が合理的な投資方法となります。ただし現実には、市場の効率性には一定の限界があると考えられています。
アクティブ運用ファンドのパフォーマンスは一般に以下のような傾向があります。 - 長期的にみると、大多数のアクティブファンドが対応する株価指数をアンダーパフォームしている
- 具体的には、米国の公募株式アクティブファンドの70~90%程度が対応するベンチマークを下回っているとされる
- 一方で、短期的には一部のアクティブファンドがアウトパフォームすることはある
- アウトパフォームするファンドも長期になるとアンダーパフォームに転じる例が多い
例えば、S&P指数とアクティブファンドの過去10年間の超過収益率を比較すると、アクティブファンドの平均は-0.43%と指数を下回っていた(2020年時点の調査)。
このように、長期的にみると運用コストなども加味するとアクティブファンドがインデックスファンドを確実に上回ることは難しいのが実態です。一時的なアウトパフォームはあってもそれを持続させることが課題となっています。
ただし、優秀な運用手腕を持つ一部のアクティブファンドが長期にわたり高いパフォーマンスを上げる例も存在しています。
市場価値と内在的価値は、金融資産の評価における重要な概念です。
【市場価値】 - 市場価値とは、その資産が実際の市場で取引されている現在の価格のことを指します。
- つまり、需要と供給のバランスで決まる「市場での評価額」です。
- 市場価値は常に変動しており、新しい情報が出ると即座に反映されます。
【内在的価値】 - 内在的価値とは、その資産の本源的な価値や理論的な適正価格を指します。
- 将来のキャッシュフロー、成長性、リスクなどの本質的な要因から計算される価値観です。
- 内在的価値は企業の実力や資産性などの基礎的な要因に基づいて算出されます。
理論的には、内在的価値が市場価値を上回れば割安、下回れば割高と判断できます。
しかし実際には、市場の需給関係や投資家の期待値の違いなどにより、市場価値と内在的価値には常にずれが生じます。バリューインベスターは、この二つの乖離を利用して投資を行います。
また長期的には、市場価値は内在的価値に収束する傾向がありますが、短期的な乖離は避けられません。この市場価値と内在的価値の差異をどう解釈するかが、投資の難しさにつながります。
情報取得コストとは、投資の意思決定に必要な情報を収集・分析するための様々なコストを指します。主な内容は以下の通りです。
【具体的な情報取得コストの例】 - データベースやリサーチレポートなど、情報収集に係る直接的な費用
- アナリストなどの人件費
- 企業訪問などの交通費や時間のコスト
- 情報処理や分析のための設備投資コスト
- 最新の技術を使ったAI分析などの費用
【情報取得コストの影響】 - 投資家が取得可能な情報量には限界がある
- 情報取得コストが高ければ、その分収益が削がれる
- コストをかけすぎると、パフォーマンスを下回るリスクも
- 機関投資家は個人投資家より多額の情報取得コストがかかる
【効率的市場仮説との関係】 - 完全な効率的市場が成立するには、誰もが無料で完全情報を入手できることが前提
- しかし現実には情報取得に多大なコストがかかるため、市場は非効率的になりやすい
- よって情報取得コストの存在が、一因となり市場に非効率性をもたらしている
このように、情報取得コストの存在が投資リターンに影響を与えると同時に、市場の効率性の障害ともなっているのです。
セミ・ストロング型の効率的市場が存在する場合でも、情報がもたらされた後にトレーダーが有効にそれを利用して収益を上げることは可能です。ただし、その可能性には一定の制約があります。
セミ・ストロング型の効率的市場では、公開された全ての情報(過去の株価を含む)が既に市場価格に反映されているため、その情報自体を利用しただけでは超過収益を得ることはできません。
しかし、以下の点で投資家は有利になる可能性があります。
- 情報の解釈の違い
同じ情報でも、解釈の仕方や評価が投資家によって異なる。優れた解釈力があれば収益機会が生まれる。 - 未公開の内部情報
一部の投資家が企業の未公開の重要な内部情報を入手できれば、その情報が公開される前に取引できる。 - 情報処理の速さ
コンピューターを使った高速な情報処理で、新しい情報が市場に反映される前に取引できれば有利。 - 分析手法の優位性
優れた投資分析モデルや手法を用いれば、他の投資家より早く的確な評価ができる可能性がある。
つまり、単に公開情報自体を利用するのではなく、情報の解釈力、未公開情報の活用、高速な情報処理、優れた分析手法などの面で他者より優位性があれば、一定期間収益を上げられる機会が残されている可能性があるということです。
ただし長期的にはこうした優位性も失われ、市場は完全に効率化すると考えられています。
ウイニング・ストリークとルージング・ストリークは、効率的市場仮説における短期的な非効率性と密接に関係しています。
ウイニング・ストリークとは、一連の取引で連続して利益を上げられている状態を指します。一方でルージング・ストリークは連続して損失を出している状態を指します。
効率的市場仮説が完全に成立していれば、過去の価格動向から将来の価格変動を予測することはできません。したがって、理論上はウイニング・ストリークやルージング・ストリークは発生しないはずです。
しかし、実際の市場では以下の理由から一時的にこうしたストリークが生じる可能性があります。
- 新しい重要情報が市場に遅れて反映される
- 投資家による情報の過小評価や過大評価
- ノイズトレーダーによる非合理的な取引
- 心理的バイアスに基づく売買行動
このように市場が完全に効率的でない場合、投資家は一時的に優位な情報やスキルを活かしてストリークを生み出すことができます。ただし、長期的には市場が効率化するにつれ、こうしたストリークは無くなっていくと考えられています。
つまり、ウイニング・ストリークやルージング・ストリークは、市場の非効率性を示す一つの現象であり、効率的市場仮説との関連で説明することができるのです。