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プライス・ツー・セールス・レシオ(PSR)の使い方

2021年10月22日 06:30

まだ上場して間もない若い企業の多くは赤字会社です。その場合、「利益の何倍で株価が買われている?」ということを測るバリュエーション尺度である株価収益率(PER)は、そもそも利益が無いのだから使えません。

幸い、利益は未だ出てないけれど、売上高なら…ある!という会社は多いです。

そこで、しかたなく、「売上高の何倍で株価が買われている?」という次善のバリュエーション尺度である株価売上高倍率、すなわちプライス・ツー・セールス・レシオ(PSR)が援用されるわけです。

PSRを求めるには、まず過去1年間の売上高を調べます。

この場合、直近の四半期売上高+そのひとつ前の四半期の売上高+さらにそのひとつ前の四半期売上高+加えてさらにそのひとつ前の四半期売上高=という風に過去4期の実績売上高を合計してください。こうして求められるのがトレーリング(trailing)12ヵ月売上高(=直近の過去1年間の売上高)です。

実例で示します。ズーム・ビデオ・コミュニケーションズ(ティッカーシンボル:ZM)の場合、売上高は:

2021年7月31日〆四半期 10.21億ドル
2021年4月30日〆四半期 9.56億ドル
2021年1月31日〆四半期 8.83億ドル
2020年10月31日〆四半期 7.77億ドル

でした。合計すれば36.37億ドルになります。これがトレーリング12ヵ月売上高です。

次に現在のZMの時価総額は780億ドルです。すると:

780億ドル ÷ 36.37億ドル = 21.4倍

これがZMのPSRになるのです。

さて、21.4倍のPSRが「高いか? それとも安いか?」という問題ですが、それは:

① どのくらい急成長している?
② どのくらい高収益体質?
③ どのくらい毎期の売上高が読みやすい?

というような要因により判断が異なって来ます。

一般に急成長している企業であればあるほど、高いバリュエーション、すなわち大きなPSRを許容することができます。

ズーム・ビデオの場合、過去4四半期の売上高成長率はそれぞれ:

2021年7月31日〆四半期 +54%
2021年4月30日〆四半期 +191%
2021年1月31日〆四半期 +369%
2020年10月31日〆四半期 +367%

でした。つまり成長率がすごく鈍化しているわけです。

すると成長率が+300%を超えているような局面では投資家はべらぼうなPSRでも喜んで払うけれど、成長率に急ブレーキがかかると評価が辛くなるのです。

次にソフトウェア企業はグロスマージンが高いので、数年間急成長の局面を続ければ、いずれ純利益で黒字になるし、その後も高い利益率を維持できると考えられます。そういう企業は高いPSRで取引されることが多いです。

逆に鉄鋼業、造船業などの利幅の薄い、景気に左右されやすい業種の場合、投資家は高いPSRを払うことに慎重です。

最後にどのくらい安定的に売上高を上げられる? ということも高いPSRを獲得するには重要です。サブスクリプション(定期購読)のように、一度顧客をモノにしたらなかなか解約されないタイプのビジネスは売上高の予想が立てやすいです。(=このことをビジビリティーが高いと表現します)

そのようなビジネスは高いPSRで買われる場合が多いです。

かつてPSRは10倍くらいが上限でした。1995年頃の話です。

しかしドットコム・ブームが起きてPSRで10倍を超える企業がゾロゾロ出てきた関係で、PSRで10倍ならむしろ割安だ!というムードになりました。

このように妥当PSRはどの水準? という基準自体に伸縮性があり、いまはどんどんPSRが拡大しています。だからPSRで20倍という企業はごろごろ存在します。

しかしそれらの若い企業の成長率が鈍化しはじめると、PSRは縮小するでしょう。

このようにPSRには「安心できる水準」は無く、常に変遷している流動的な相対評価基準くらいに考えておいた方が無難です。