新規株式公開の傾向と対策③
2021年6月23日 02:12
証券会社のコンピタンスは如何にしっかりとしたブックビルディングを行えるか? であることは前回書きました。
そこで「ズバリ一番良い仕事をしている証券会社はどこ?」という話をしたいと思います。
No.1はゴールドマンサックスです。僅差でNo.2はモルガンスタンレー。この2社のうちどちらかが主幹事を務めているディールだけが、皆さんが時間を割いて研究するに値する案件です。
強いて言えば例外としてヘルスケア・セクターのIPOの場合のみJPモルガンが主幹事を務めるディールにも注目してください。その理由はJPモルガンは伝統的にヘルスケアにとても強いからです。近年の例を示せば新型コロナ・ワクチンでホームランをかっ飛ばしたバイオンテック(ティッカーシンボル:BNTX)はJPモルガンが主幹事を務めたディールです。
消費/サービスではBofA(=バンクオブアメリカ・メリルリンチ)も良い仕事をすることで知られています。これは以前、同社がその分野に強いサンフランシスコのブティック証券、モンゴメリーを買収したことが少なからず影響していると思います。
エネルギーでは伝統的にシティグループが強いです。半導体ではバークレイズも頑張っています。
いずれにせよ各証券は全ての引受け案件を巡って激しい競争を繰り返しており、幹事選定というものは偶然どこかの証券会社が主幹事に抜擢されるのではなく、激しい戦いの末に決まるものだという事です。ポンコツな会社の主幹事をゴールドマンサックスやモルガンスタンレーが務めることはほぼありません。逆に聞いたことも無いような証券が主幹事を務めるディールに良い会社は殆どありません。
この序列は厳然としたものであり、ランキングを覆すためには10年から20年の歳月が必要です。
私が考える序列とは、次のようなものです。
- ゴールドマンサックス
- モルガンスタンレー
- JPモルガン
- BofA
- シティグループ
- バークレイズ
- クレディスイス
- ドイツ銀行
- ジェフリーズ
- UBS
なおトップ3と下位行との格差は近年どんどん開いており「3強時代」が明白になっています。だから売出目論見書を読むときは「主幹事はどこか?」に先ず注目すると良いでしょう。
主幹事証券はIPOの上場日の前日夜、**値決め会議(Pricing meeting)を持ち、発行価格、発行株数を決断します。その際の判断材料としては需要の強さ、コア投資家の顔ぶれ、大口投資家にどのくらい需要が集中しているか? などが挙げられます。どれだけ倍率の高いIPOでも需要の中身をみると殆どが小口注文だった場合(=そのような構図を「テールが長い」**と表現します)、それらの注文の多くがフリッパーとして後で売り方に回ることが懸念されます。
値決め会議で発行条件が決まると主幹事証券はそれを**米国証券取引委員会(SEC)に報告します。SECはその発行条件が要件を満たしていることを確認したうえで「有効(effective)」**を宣言します。SECがこれを宣言するまでは、どれだけ需要があってもそのIPOは成立ではありません。すると引受けシ団はSECからの連絡をやきもきしながら待つことになるわけです。
SECから「ゴー・サイン」が出た後で、シ団は初めてIPO株の割当を注文を入れてくれた投資家に連絡することが出来ます。それは上場前日の夜か、もしくは上場当日の朝になります。この連絡が終わらないことにはその日の立会が既にスタートしたとしてもIPO株の取引きを開始するわけにはゆきません。よくIPO当日に日本時間の早朝2時くらいになってもなかなか取引が開始しないのはそのためです。
IPO当日にはまず暫定的な気配が示され、既に上場初日取引での注文を入れている機関投資家ひとりひとりに「気配値はこの値段になっているけれど、よろしいですか?」と確認して回ります。その際「ちょっと高過ぎるね」と言う風に注文を引込める投資家も居ますし、逆に注文を増やす投資家も居ます。そのように需給関係に変動が生じれば、それに合わせて気配値も改訂しなければいけません。気配値が改訂されれば、もう一度注文を入れている全員の投資家に「新しい気配値はこうです。これでよろしいですね?」と再確認しなければいけません。IPO当日、われわれ個人投資家はその銘柄の取引が開始されるまでずいぶん待たされるように感じるわけですが、その間、水面下では上に述べたような摺り合わせの作業が行われているのです。
普通、この摺り合わせ作業はオフライン、すなわちニューヨーク証券取引所やナスダックの取引画面以外の場所で行われます。そして需給のバランスが固定した後、取引開始直前にそれが一般に発信されます。なぜそれに至る途中の経緯を逐次配信しないか? と言えば、それをやってしまうと気配が動きすぎて収拾がつかなくなるからです。
IPO当日は出来高も多いですしシステムに負荷がかかります。フェイスブック(ティッカーシンボル:FB)のIPOの時のように余りにも注文が殺到しすぎてシステムがパンクし、投資家が「いま幾らの値段で取引されている?」、「自分の注文は成立したの?」、「キャンセルした注文はちゃんとキャンセルされているの?」というようなことが分からなくなってしまい大混乱に陥りました。
このようにIPO当日はいつ不測の事態が生じるかわかりません。自分がイメージしていた値段より遥かに高い買い物についた……というようなことはザラにあります。従って我々個人投資家が心掛けるべきことは横着して早くから自分の決め打ちの指値注文を入れるのではなく、ちゃんとIPOが寄付いて、円滑にトレードが動き出したのをまず確認することです。その後で成行注文なり指値注文を入れる習慣をつけてください。