投資で成功する道⑥ 「公募」、「売り出し」に対する考え方
2021年3月19日 18:14
投資で成功する道は長く険しく時に下り坂になることもあり平坦ではありません。でも特別なスキルを習得せずともそこそこの投資成果を出すことは不可能ではありません。それはバンガード・トータル・ストック・マーケットETF(ティッカーシンボル:VTI)を買えばいいのです。
もし「それじゃ味気なさすぎる!」というのであればバンガード米国高配当株式ETF(ティッカーシンボル:VYM)にも分散することで分散投資の気分を味わうことが出来るでしょう。
もし「どうしても個別株に投資したい!」というのであればアルファベット(ティッカーシンボル:GOOG)、フェイスブック(ティッカーシンボル:FB)、アップル(ティッカーシンボル:AAPL)、アマゾン(ティッカーシンボル:AMZN)、マイクロソフト(ティッカーシンボル:MSFT)の中から数銘柄分散し、同時に買い建てることをお勧めします。
ここまでが、初心者が手軽に始める事の出来る株式投資であり、それ以上のことを試みようとするのなら、それがどんなストラテジーであれリスキーな投資になります。
前回は自社株の買戻しや配当といった、企業による株主への還元の話をしました。今日はその逆で企業が資金調達する、ないしはベンチャー・キャピタル、経営陣など既存株主がその企業の株を一般の投資家に譲渡するケースについて説明します。
それらの株式の販売は「公募」と「売り出し」に分類されます。
【公募】
会社が新しい資金を調達することを目的に新株を発行すること。プライマリーオファリングとも呼ばれる。発行済み株式数は増加する。
【売り出し】
すでに経営陣、ないしはベンチャー・キャピタルに代表される初期の出資者が所有している既発株(=これをシーズンドストックと呼ぶ)を証券会社がまとめ、あたらしい投資家に売って歩くこと。セカンダリーオファリングとも呼ばれる。発行済み株式数は増加しない。
なお「公募」と「売り出し」が同時に、ひとつにまとめられて行われる場合もあります。
公募で調達されたお金は会社の事業資金に回されます。
売り出しで獲得した現金は会社には行かず、その既発株を保有していた個人やベンチャー・キャピタルに行きます。
すると我々個人投資家がまず考えなければいけないことは「我々は誰から、誰の株を買っているのか?」という問題です。
場合によってはCEOなど経営陣が自分の持ち株を売っていることもあります。もちろん「CEOは株を売ってはいけない」という法律は無いわけだからそれは許されるのですが、会社の内容をもっともわかっている人が売りに出している株を情報面でハンデがある我々が買うのは気分が良いものではありません。
一例としてバイオテクノロジーの創業者は研究者が多く、創業に際しての自己資金も限られているし創薬に成功するまで給与も少なくカツカツの生活をしている経営者も少なくありません。そういう会社が開発にメドがつき、経営者が持ち株を売るのは決して非難されるべきことではありません。
ベンチャー・キャピタルが持ち株を売る場合、彼らはビジネスとして創設期のリスキーな会社に投資し、その会社が上場を果たしたらその株を売ることで投資資金を回収しているわけですから、ある意味、予期された、あたりまえのことをしているだけとも言えます。
新規株式公開(IPO)される若い企業で、ベンチャー・キャピタルなど外部資金が入ってないケースは皆無に近いので、売り出しは避けて通れません。
すると我々がむしろ問題にしなければいけないのは「株がどういうカタチで市場に出てくる?」ということのほうです。
企業がIPOするとき、経営陣やVCなど既存株主は「180日間は持ち株を売らない約束を交わしましょう!」というカタチで紳士協定を結びます。これはロックアップ契約とも言われ、IPOを仕切る主幹事証券と既存株主との間の覚え書きのカタチを取ります。
規定の180日(=稀に期間がそれより短い場合があります)を過ぎれば、既存株主は市場で自分の持ち株を処分できます。いわゆる「ロックアップ明け」になると株価が下がると投資家が心配するのは、このためです。
そのように五月雨的に売り物が続々出てくると株価に良くありません。そこで主幹事証券は「この際、既存株主で持ち株を売りたい人の売り物を全部一本化し、証券会社がマーケティングすることでそれを秩序良く新しい安定株主にハメ込んではどうか?」と提案するわけです。これが「売り出し」であり、それは放っておいたらダダ漏れになる売り圧力を一本化しているに他ならないので必ずしも忌み嫌うべきイベントではないのです。
むしろ主幹事にまとめて販売してもらい、その際、「もう一回、新しくロックアップ契約を結び直しましょう!」という延長もできるわけです。だから売り出しの是非はそういう条件まで吟味した上で総合的に評価されるべきです。
もうひとつ一般投資家が知っておくべき豆知識として、主幹事証券は業績が悪い企業の売り出しには普通応じないという点です。これはどうしてか? といえば悪い決算を出した直後の会社の株を引き受けると証券会社が評判を落とすからです。また売り出しを行った直後の決算でズッコケると、これも証券会社の評判を落とします。
引受け証券会社はブックビルディングという機関投資家からの需要の積み上げ作業を行い、長期でその株を持ってくれそうな安定株主を中心として株を割り当ててゆきます。ゴールドマンサックス、モルガンスタンレー、JPモルガンはとりわけその作業が上手いことで知られています。売り出し価格は、その値段で新規に株を買った新しい投資家になるべく迷惑をかけないような十分に低い値段で決定されます。
以上が売り出しの説明ですが、次に公募について説明します。
公募は会社の資本に組み込まれるフレッシュな資金を、新株を刷ることで市場から調達する行為ですので、自社株の買戻しの逆をやっていることになります。公募をやると発行済み株式数は増えてしまいます。
ただそれでは「公募は必ず悪いか?」と言えば、それはそうではありません。育ちざかりの子供にはたまにはステーキでも食べさせて大きく育ってほしいのとまったく同じ理由で、若い育ちざかりの企業は成長のために必要な資本を調達しなければいけません。だから資本を投資家から募ることが悪いのではなくて**「そうやって集めたカネを本業に突っ込んで、どれだけのリターンを生んだか?」を問題にしなければいけない**のです。
もしそれで売上高がどんどん伸び、利益も増えたのであれば、公募は「悪」ではなく「善」です。
たとえば新型コロナワクチンを開発しているモデルナ(ティッカーシンボル:MRNA)という会社が去年の5月に株価が急騰した際、公募増資したケースがありますが、あのときは「80ドルという高値で、ねらいすましたように公募してズルい!」という批判が出ました。
しかしその当時モデルナはワクチン開発のためどんどん研究開発費をつかっており、結果として2020年の一株当たり利益は-$1.96と赤字でした。公募で投資家から集めた資金でワクチンを完成することが出来たので今年の一株当たり利益は$22.69が出せるとアナリスト達は予想しています。
つまりこれなどは公募をやって良かった例、もっといえば投資家から託されたお金を使って、それを何倍にもはぐくんだ例だと言えます。
もうひとつ我々投資家が覚えておくべき事は企業が公募で増資する良いタイミングは、その企業がお金を必要としている時とは限らず、むしろ有利な条件で株を出せる時だということです。
企業が運転資金をどうしても必要とする時、往々にしてその企業の株価は低迷しています。株価が低迷しているとき、必要資金を揃えようと思えば、安値でたくさんの株を発行することが必要となり発行済み株式数がどんどん増えてしまいます。このような資金調達は感心しません。
むしろ今差し迫ってお金を必要としていないけれど、株価が高いときに少し新株を出して資金調達しておけば「雨の日」が来たときに困らないわけです。
そのような理由から、思慮深い財務部長は、まったくお金を必要としない好業績、高株価のときに転ばぬ先の杖で公募を敢行するのです。これはその企業の「強さの現れ」に他ならないので個人投資家はそれを曲解すべきではありません。
ところで最近流行している**アット・ザ・マーケット・オファリング(At the market offering)**という手法があります。アット・ザ・マーケットとは「成行(なりゆき)」の意味であり、そのときの状況、価格により、どうでもいいという意味です。それはディーラーとなる証券会社のトレーダーが、通常の株式の取引を通じてどんどん新株を売り事を指します。
アット・ザ・マーケット・オファリングはなりふり構わず、相手構わず、どんどんみんなの買い注文に売り物をぶつけてゆく手法であり、とても下品な資金調達のやり方です。株価が安値をウロウロしており、事業資金が枯渇しそうで、背に腹は代えられないような企業が好んで使う手法なので、アット・ザ・マーケット・オファリングをやっている株は避けた方が賢明でしょう。